今回は今話題のベロテックと喘息死について
ベロテックはβ2選択性は低く、心毒性が強い
ベーリンガー・インゲルハイム社はベロテックの「β2選択性が高い」と主張し、医師は喘息専門医も、私も含めてほとんどがそう思っていた。しかし、メーカー提供資料を私達が検討したところ、ベロテックのβ2選択性はイソプロテレノールより高いが、サルブタモールよりはるかに低いことが判明した。承認根拠となった毒性試験では、ラットに二分間大量吸入で心筋壊死。五週間の経口亜急性毒性試験で心筋壊死が用量依存的に増加。最低量の2,5mg/kg(臨床量7,5mg/50kgの17倍)で10%が心筋壊死し、安全量不明。イヌでも臨床量の二倍で心筋障害を認め、安全量不明。600mg/kgで20%、1500mg/kgで44%と突然死も用量依存的に増加した。臨床量の二千〜四千倍で心毒性が認められないサルブタモールに比し、ベロテックは千〜二千倍以上の心毒性を示した。β2作動剤中ベロテックの危険が特に問題になる主な理由はこのためだ。
喘息死は不適切な薬剤・不適切な治療で増加 世界的な喘息死の大流行は四回あり、それぞれアドレナリンやイソプロテレノールなど、心臓刺激の強い薬剤(吸入剤)の導入と深い関連があった。
ベロテックMDIを規制したニュージーランドでは喘息死が激減した。
喘息死トップクラスの日本 日本の喘息死は約六千人/年で今や世界のトップクラス。日本小児アレルギー学会喘息死委員会のデータでは、喘息死者中死亡前一カ月間にβ作動剤MDIを使用した三十一人中ベロテック使用者は十六人(51.6%)。この間のベロテックのシェアは18.3%。ベロテックが他のβ作動剤の約五倍危険の可能性があり強い関連を示唆する。ベロテックが発売開始の一九八五年以降、十五〜二十九歳男性(受験や就労開始期)で特に増加が顕著で、過剰死亡者数は約110人/年(推定)。
抗炎症治療抜きのベロテック治療が特に危険 喘息の治療の出発点はまず発作の軽減だが、発作軽減後は速やかに気管支の炎症を改善する「抗炎症治療」(吸入ステロイド剤やクロモグリク酸)に移るのが原則だ。「喘息」とは、気管支痙攣や浮腫など急性の変化よりも、その基礎にある、気管支の粘膜の慢性的な変化(アレルギーや化学物質などによる炎症で腫脹、粘液が貯留し気管支内腔が狭窄)の方が重要な、慢性の疾患だからである。
ベロテックは、速やかに代替薬剤に変更を 「ベロテックがなければ治療ができない」と思っている患者はいるが、そのような患者も、喘息治療の基本がきちんとできれば、サルブタモールMDIのようなもので十分コントロールできるはずであり、そのような治療ができなければならない。基本的な治療ができているかどうかを見直し、速やかに代替薬剤に変更すべきである。ただし、ベロテックを中止しても、その代替薬としてイソプロテレノールが処方されては何にもならない。 |
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