「いま医薬品を見直そう」 シリーズ

 

  

 

第 4回 喘息死とフェノテロール(ベロテック)MDI  その2

  

1997年8月25日

 

【喘息治療の基本・抗炎症治療】
 WHOの勧告でも、「週に3回までのβ作動剤の吸入で発作が簡単に抑えられるようなら、β作動剤MDIでよいが、週4回以上β作動剤の吸入剤を使用するような場合には、クロモグリク酸やステロイド剤を中心とする抗炎症治療に重点を移すべき」とされている。ただし、クロモグリク酸以外の抗アレルギー剤の効果と安全性は疑問であり、使用は推奨できない。

【基本治療ができない背景の検討を】
 患者の中には、就職をし始めて間もないとか、たびたび喘息で休んでいて、これ以上休むと解雇されるとか、いろいろの事情を持った人も多く、また単純にこの基本的な治療を守ってくれない場合も多い。しかし、抗炎症治療をせずに、一日二十回も三十回もベロテックだけを使用している人は本当に危険である。適切な治療により気道炎症の抑制をはからず、β作動剤の頻回吸入のみに頼る治療は危険であることを、ぜひとも患者さんにねばり強く説明して分かってもらわなければならない。

【100%関連が証明されていなくても対策を】
 動物試験の結果、臨床試験、諸外国の疫学調査、日本におけるベロテックと喘息死との関連の強さなどを総合すれば、100%と言えないまでも、ほぼ確実にベロテックが喘息死を増加させているとの考えで対策をとるのに必要なデータは、そろっている。
 薬の有効性は、厳密な臨床試験で証明されていなければならない。しかし、危険性については本当に危険であった場合の影響の重大性を考え、効果の証明ほど厳密でなくとも、相当の可能性があれば、対策をとるべきだ。

【患者も医師も多様な喘息治療】
 不適正な治療がある程度はあることを前提とした対策が必要だ。現実の生活のために、β作動剤MDI、とくに効果の持続するフェノテロールMDIで一時しのぎの治療を繰り返さざるを得ない患者は、依存の傾向に陥り易い。喘息はいろいろなレベルの医師によって治療され、いろいろな患者がいる。「過量投与になるおそれの無いことが確認されている場合に限る」とする、「緊急安全性情報」の注意事項が守られない医療が現実に存在する。通知は重要な内容を含むが、このような現実は、一片の通知で解決できる問題ではない。
 また、この「緊急安全性情報」では、「他のβ刺激薬吸入剤が無効な場合に」限り、フェノテロールを使用するとしている。フェノテロールを安易に使用すべきではないということを強調するための情報ではあろうが、この注意は誤りである。「他のβ刺激薬吸入剤が無効な場合」は、「抗炎症」に重点を移した治療を行うことが喘息治療の基本だからである。「他のβ刺激薬吸入剤が無効な場合」に抗炎症治療に重点を移すことなく、より心臓刺激の強いベロテックに切り換えることを推奨する「情報」は極めて危険だ。

【代替薬に変更後、速やかにベロテック中止を】
 基本的治療ができていないベロテック使用者は、抗炎症治療(クロモグリク酸、吸入ステロイド剤など)中心の治療をした上で、サルブタモールなどの代替β作動剤に速やかに変更すべきである。