「いま医薬品を見直そう」 シリーズ

 

  

 

第 5回 テルフェナジン(トリルダン)
      不整脈死の重篤さと軽い適応症 バランスを欠く危険/便益比 (その1)

  

1997年9月25日

 

 テルフェナジン(トリルダン)は、重篤な心室頻拍から突然死を生じうるため、TIP誌では発売当初からこの問題点を指摘してきた。

【緊急危険性情報】
 「緊急安全性情報」という名の「緊急危険性情報」が配布された。発売五年間で七例の重篤な心室頻拍例が報告されたが、何度かの警告にもかかわらずその後二年間でさらに十例の重篤な心室頻拍の例が報告されたためである。17例中3例はテルフェナジンの害反応に関連した死亡例であった。
 アメリカでは、テルフェナジンの代謝物質で体内での活性物質であるフェキソフェナジン(カルボン酸型テルフェナジン)が発売されたこともあって、FDAは製薬企業に対して、テルフェナジンを中止するよう勧告した。フランスでは、フェキソフェナジンは未発売であるが、一九九七年二月、保険省が同様に中止の措置をとった。日本ではフェキソフェナジンは第U相臨床試験中。テルフェナジンの中止勧告も、中止の措置もなされていない。
 TIP誌では、独自にこの問題に検討を加え「トリルダンによる突然死の重篤さは適応症の軽さに比し、バランスを欠くために、使用を中止すべきである」との結論に達し、一九九七年三月号に掲載した(アステミゾールについては六月号に掲載した)。

【心室頻拍、死亡の発現機序】
 この害反応の特徴は、QT延長からtorsades de pointes型心室頻拍を起こして、突然死亡するというものである。
 テルフェナジンの場合、通常体内で作用している物質は、肝臓で代謝を受け未変化体よりも効果は三分の一、毒性は三分の一以下になったカルボン酸型代謝物(フェキソフェナジン)である。ところが、非代償性の肝硬変など重篤な肝障害、マクロライド系抗生物質やミコナゾール等アゾール系抗真菌剤の併用、グレープフルーツジュース飲用などで、テルフェナジンの代謝は抑制され、ふだん体内で作用している物質よりも毒性が三倍以上も強い未変化体が体内に蓄積し、毒性が一挙に高まる。
 また、種々のQT延長を生じる薬剤(フェノチアジン系やブチロフェノン系の抗精神病剤、抗うつ剤、抗不整脈剤、制吐剤、チアプリド、プロブコールなど)を併用することにより、相加的に働き、QT延長から心室頻拍を生じうる。たとえば偽性腸閉塞などで排便困難のためシサプリドとドンペリドンが投与されている人が花粉症になり、トリルダンを服用したとすると、QT延長を生じうる薬剤が三剤投与されることになり、これだけでも危険となりうる。
 先天的にQTが延長している人(QT延長症候群)ではまったくそのような併用がなくとも、通常用量のテルフェナジンでも危険である。
 また、百人に一〜二人ぐらいの率で、テルフェナジンの代謝をしている薬物代謝酵素(P450のCYP3A4)の活性が、通常人の十分の一しかない人がいる。このような人では、上述したような危険因子が全くなくても、心毒性の危険が高く、実際そのような例が報告されている。
(つづく)