「いま医薬品を見直そう」 シリーズ

 

  

 

第 8回 「かぜ」「熱」への解熱剤を今一度点検しよう
      熱で死ぬことはないが、解熱剤では死ぬことがある-(2)

  

1997年11月5日

 

【強力なNSAIDsは「かぜの解熱鎮痛」には不適切】
 ナプロキセン、フェンブフェン、ピロキシカムはいずれも半減期の長いNSAIDsであり(フェンブフェンは活性代謝物のビフェニリル酢酸の半減期が長い)、そもそも「かぜの解熱」というような、頓用で即効性を期待する場合には、原理的に不適切な薬であった。この意味で、今回の措置は当然であるが、むしろ遅きに失した感がある。インドメタシンやジクロフェナク(ボルタレンなど)、メフェナム酸(ポンタール)など強力なNSAIDsがなお、「かぜ」に対して適応が残っているのは問題だ。

【アセトアミノフェン以外はウイルス性上気道炎に使用すべきでない】
 小児用バッファリンは、「ウイルス性によると思われる急性上気道炎」が適応症から除外された。これは、ライ症候群を考慮してのことと思われ、これも遅きに失した感が否めないが、適切な措置であり評価できる。しかし、小児用バッファリン以外のNSAIDsに関して、「ウイルス性によると思われる急性上気道炎」が適応症から除外されていない。アセトアミノフェンは別として、これはなお問題が大きい。
 ライ症候群とアスピリンとの関連が指摘されたアメリカでは、アセトアミノフェン以外の解熱鎮痛剤はアスピリンしかなかった。アスピリンとの関連が浮かび上がったのはこのためと考えられる。しかし、日本では(本格的調査が未実施のために断定はできないにしても)、アスピリン以外のNSAIDsも、ライ症候群との関連の可能性を当然考えておくべきである。
 細菌感染による上気道炎は抗生物質という有効な治療手段があるために、身体の感染防御反応が抑制されたとしても問題はまだ少ないかも知れない。しかし、ウイルス性疾患の場合の治癒機転は、自然治癒力(固体の感染防御機構)にすべて依存しているのであるから、その重要な反応が抑制された場合には、種々の合併症を生ずる可能性がある。先述したように、アセトアミノフェンでも水痘の治癒が遅延することが指摘されている。しかし、アセトアミノフェンは、ライ症候群のような重篤な疾患のリスクは著しく小さいので、欧米でも、小児のウイルス性疾患に使用可能な唯一の解熱鎮痛剤である。
 このように、再評価結果は、不十分であるが「解熱鎮痛剤は頓用」、「一日二回を原則とする」など、いくつかの点で評価できる。

【医療の現場の戸惑いに対する配慮は必要だが】
 しかし、医療の現場からは「原則は頓服としても、ある時には分三投与などの選択肢もほしい」「小児科でよく使われるアセトアミノフェンも一日二回以内に限定されるということになれば、実地医は困る」などの意見が出された(参考文献参照)。
 日本医師会ではこのような現場からの意見もあるため、「従来繁用されてきた内服という用法を否定し、頓用のみに限定した医学的理由について明らかにしてほしい」など、五項目にわたる公開質問状を厚生省に提出した。日医からの質問に対して厚生省は、「重篤な症例については、主治医の判断により頓用最大一日三回を処方することを否定するものではない」「症状によっては主治医の判断により、頓用として処方して五日程度投与することもあると考える」など、再評価結果について従来の使用方法を追認するともとれる旨の回答を出した(参考文献参照)。
 医療現場や患者の意識を一挙に変更することは困難であるが、もっと適切な使用方法に関する指針を、厚生省(しかも薬務局)からではなく、医師団体自らが打ち出す必要があるのではないか。(つづく)

 参考文献
 1) TIP「正しい治療と薬の情報」,6:68,1991
 2) TIP「正しい治療と薬の情報」,7:36,1992
 3) 大阪小児科学会、地域医療委員会
 4) 「かぜの処方を再検討する」日経メディカル,第320号,P99,1995年1月号