「いま医薬品を見直そう」 シリーズ

 

  

 

第 9回 「かぜ」「熱」への解熱剤を今一度点検しよう
      熱で死ぬことはないが、解熱剤では死ぬことがある-(3)

  

1997年11月15日

 

【対症療法はあくまでも最小限に】
 生体に自然に備わった感染防御反応(および抗生物質等の効果)によって病原体の局所への封じ込めが成功し、全身への侵入が阻止されると解熱するが、病勢が進行中であっても熱が下がれば身体は楽に感じる。
 一方、感染症では、熱があまりない場合よりも発熱が激しい場合の方が、一般に重症であり、意識レベルが低下したり、死亡する例もある。このために、人々は高熱に恐怖を抱き、熱が下がることを喜ぶ。
 医療行為には、まず、患者の苦痛をとることと、最終的に患者を早く健康な状態にもどすことが要求される。両者が同時に得られる場合は問題がないが、両立しない場合には問題になる。熱に対する対症療法(解熱剤)のように、解熱すると病気が一見して治ったかに見えるほど楽になるが、実は病気の治癒はかえって遅くなる(病気は悪化する)場合が典型的な前者の例である。
 このような状態に対して、日本では「患者の苦痛をとること」を最優先する治療が、いわば無批判と言えるほど普及してきた。これには、患者のためだけでなく、薬の処方による薬価差益が医療機関の原資として不可欠であるという従来の保険経済があったこと、その処方を正当化する適応症が公認され、改められることもほとんどなかったことが大いに関係していると思われる。
 しかし、すでに指摘したように、対症療法薬は、あくまで全体の病勢には影響を与えない程度に苦痛が和らぐことを目標に投与し、症状が軽快後も使用するといったことのないように、医療現場では注意が必要である。

【患者の不安を取り除くために十分な説明が必要】
 もう一つの重要なポイントは、これまでの医師の処方習慣に慣れ親しんで解熱鎮痛剤にすぐに頼ろうとする患者の不安にどう答えるかである。そもそも、親にとって、子どもの熱は不安の種である。大人にとっても、熱があっても働かなければならないなど、熱を下げておきたいという希望は根強い。
 このような状態で、何の説明もなく「解熱鎮痛剤は頓用のみ」に変更すると、患者はとまどうばかりである。そこで、解熱剤はなるべく使わない方がよい理由を、患者や患者の親によく説明し、納得してもらわなければならない。
 「発熱するとウイルスは弱くなる」「痛みを伴う炎症反応は、病原体を最初の感染局所に押し止め、それ以上奥へ感染が広がらないようにするためのバリアーを作る生体の重要な反応である」「強力な解熱鎮痛剤でこの反応を無くしてしまうと、病原体は却って活発化し、身体の奥深くに侵入するために、病気を長引かせたり、より重篤な状態を招く結果になりかねない」「だから、特に高熱や痛みのために睡眠できないなど苦痛がひどい場合にだけ、少し使うようにした方が、かえって病気は早く治りますよ」といった説明を丁寧にすると、ごく一部の患者さんを除いて、殆どの患者さんは、納得してくれる。
 熱や炎症の意味、解熱剤の使用の功罪と使用のタイミングなどについて記したリーフレットを用意しておくのも一つの方法だ。TIPのNSAIDsの説明書(参考1)、総合感冒薬の説明書(参考2)、大阪小児科学会の解熱鎮痛剤の使用説明書(参考3)などが参考になろう。
 初診のときはなるべく解熱剤は渡さない方針の医師もいるという(参考4)。熱がある患者の母親には、必ず全員に体温表を渡して一日三回ほど記録の上、再診時に持参してもらうという。「三〜四日たっても熱が下がらず、再診のときに子どもも母親も体力を消耗しているようならば、"熱が下がったら続けないように"といって解熱剤を渡す」というものである。合理的な方法と言えよう。

参考文献
 1) TIP「正しい治療と薬の情報」,6:68,1991
 2) TIP「正しい治療と薬の情報」,7:36,1992
 3) 大阪小児科学会、地域医療委員会
 4) 「かぜの処方を再検討する」日経メディカル,第320号,P99,1995年1月号