「いま医薬品を見直そう」 シリーズ

 

  

 

第11回 Hブロッカーと消化性潰瘍 (2)
      厳密な処方と説明、丁寧な経過観察が必要

  

1997年12月15日

 

胃炎・胃炎症状とHブロッカー
ブロッカーによる感染増悪と血液障害、免疫への影響
 胃は食物を消化するための臓器だが、食物だけでなく細菌など病原体もいっしょに入ってくる。胃液はペプシンと塩酸が主成分。塩酸を含む胃液分泌は多くの細菌やウイルスなどによる感染から体を守る一種の感染防御機能である。
 Hブロッカーによって胃酸の分泌を抑えると、胃・十二指腸の粘膜の障害から守ることはできるが、過剰に抑制すると感染防御機能も抑制される。しかもHブロッカーが抑制する感染防御機能は胃酸分泌だけではない。
 たとえば、骨髄の幹細胞やサプレッサーT細胞にもH受容体があり、感染時の白血球の産生、出血時には赤血球や血小板の増加、免疫系など、ひろく障害への防御系に深くかかわっているようだ。
 したがって、Hブロッカーによりこれらが抑制されると、胃液の酸度の低下により胃液中の細菌が増殖するだけでなく白血球減少やリンパ球の機能異常なども関係して感染を引き起し増悪したり、免疫異常を起こしたりする。

神経・精神障害
アレルギーなど
 Hブロッカーは、それ自体に対するアレルギーを生じるとともに、他の薬剤に対してアレルギーを獲得しやすくしたり、自己免疫疾患の発症や悪化(例えばDLEのSLE化など)をも起こす可能性がある。
 常用量の範囲でも、高齢者に対しては痴呆症状など精神症状、痙攣の素因のある人では痙攣が生じうる。相互作用はシメチジンで生じやすいが、他のHブロッカーでも相加的な相互作用で痙攣など神経症状や不整脈などが生じうる。

OTC薬はほとんど害がないものでなければならない
 OTC薬は、通常の使用量ではほとんど全く重篤な害反応を生じないような薬剤でなければならない。
 Hブロッカーのように致死的あるいは重篤な害反応を生じる薬剤はそもそもOTC薬として不適切である。医師として注意すべきことは、以下に示すように、禁忌疾患に使用しないこと、合併症に応じた使用量の調節をすること、そのための十分な問診と処方後の十分な観察をする必要がある。

腎機能異常者は要注意
 多くのHブロッカーは腎臓で排泄されるために、腎機能異常のある人(肝硬変で低アルブミン血症の人)は排泄が阻害され血中濃度が上昇し、副作用が出やすい。

胃痛、胸やけ、胃もたれ、むかつきは、胃炎以外にも生じる
 OTC薬としてのHブロッカーは、主に抗潰瘍剤として使用される要処方の薬剤とは異なり、「胃痛、胸やけ、胃もたれ、むかつき」という症状に対して、診断があいまいなまま、対症療法として使用される。これらの症状は、Hブロッカーの使用が危険と考えられる感染症においてもしばしば生じるものである。
 たとえば、細菌性腸炎やウイルス性腸炎、胆石・胆嚢炎では胃痛や胃もたれ感、むかつきを生じるし、ウイルス性肝炎でも胃もたれ感やむかつきを生じる。胃痛が胃潰瘍の症状であることはもちろん、胃もたれやむかつきが胃癌の症状であることもあり、このような症状を医師は見落としてはならない。

効果は
 今回適応となった胃痛、胸やけ、胃もたれ、むかつきに対する海外の無作為比較試験の結果では、dyspepsia(とくに持続する場合)に対して、消化性潰瘍に使用する用量のHブロッカーは制酸剤より優れるか同等、あるいはスクラルファートより劣るとの結果がある。

心配したことが現実に?
 国内外とも臨床試験論文上、副作用はあまり問題にされていない。しかし、医師の診断が介在し、注意すべき病態が除外されているはずであるのに、現に感染性腸炎の合併や肝硬変、食道静脈瘤の悪化例が記載されていることが判明した。TIP誌で指摘した心配が現実に起こっていた可能性がある(詳細十二月号)。
 前記症状に制酸剤が無効な場合は、感染性腸炎などを含め、重大な病態を考えて医療機関を受診すべきだ。Hブロッカーを、病態の診断なく使用することは危険なことである。薬局にはこの点特に留意いただきたい。

おわりに
 以上、致死的害を生じる薬剤はOTC薬にそぐわない点、その致死的な害を生じうる基礎疾患の判別は一般の人には不可能である点、それに効果と危険性の面からもHブロッカーはOTC薬としては不適切と思える点を指摘した。
 また、医師自身、Hブロッカーの適応、種々の疾患の可能性、合併症、相互作用、説明、処方後の副作用の監視などの点に関して十分な注意をして診療にあたる必要がある点を強調したい。

【参考文献】
(1) Gastrointestinal Drug Guidelines
    1994/1995,Therapeutic Guidlines Ltd Australia
(2) TIP「正しい治療と薬の情報」1986:1、71
(3) 同1996:11,37
(4) 同1997:12,24
(5) 同1997:十二月(予定)
(6) 日本病院薬剤師会雑誌1987:23,1009,泉早苗、浜六郎
(7) コクラン・ライブラリー1997,issue3