[解説] エビデンスとして、以下のようなことがあげられている(抜粋)。
[自然予後]八十歳では心房細動の罹患率は10%。全脳卒中の約15%は心房細動に起因。慢性心房細動未治療者の脳卒中発生率は年間5%。
[治療効果の根拠]アスピリンVS対照の比較試験と、ワーファリンVS対照の比較試験の系統レビューの結果を間接的に比較。
脳卒中の予防はワーファリンがアスピリンより有効と示唆されたが、ワーファリンで確実かつ安全なコントロールが可能か否かに不安がある場合には中等量(75-150mg/日)のアスピリンが安全・有効な代替選択となる。
ワーファリン治療では二十五〜三十五人を治療して毎年一人の脳卒中予防が推定される一方、重篤な出血(脳出血や入院を要する出血)が年間1〜1.3%に認められた。
中等量(75-150mg/日)のアスピリンの長期投与では、六十七人に治療して毎年一人の脳卒中が予防できると推定された。禁忌はほとんどない。重篤な出血はまれ。
日本ではアスピリンは適応外だが、このように適応の根拠となる臨床試験が実施されている。慢性心房細動にも適応が承認されるべきであろう。
EBM治療指針カード
慢性心房細動 【診断と検査】 原因疾患:僧帽弁膜疾患、心不全、虚血性心疾患、甲状腺機能亢進症など。
検査:血清K、心電図。心エコーや甲状腺機能検査も考慮。
【心拍を下げる】 洞調律にもどすことが、症状軽減や脳卒中リスクの減少に最も効果的。心拍数が正常化すれば、ふつうは症状も軽快する。
1.DC除細動:確たる証拠に基づく適応というよりは、むしろ習慣的に適応されることが多い。
通常は器質的心疾患が証明されていない患者や軽〜中等症の心疾患患者に対する処置として留保すべきものである。
2.薬物治療:脈拍のコントロールはジゴキシンで可能。血行動態が不良の患者には電気的除細動を考える。洞調律への復帰は、高用量のアミオダロンを用いることにより、薬物的にも試みうる。
【脳卒中のリスクを減らす】 ワーファリンによって脳卒中のリスクは大幅に減少する。少量のアスピリンもワーファリンには劣るが有効。慢性心房細動があり、かつ明らかな禁忌のない患者には、長期の抗凝固療法を考慮する。ワーファリンではコントロールが難しい例、コンプライアンス不良や合併症が問題になる例では、アスピリンを使用。
1.ワーファリン:INR値で2〜3を目標にする。(プロトロンビン活性で30〜50%程度)
または 2.アスピリン:中等量(=150mg/day)
【専門医紹介の目安】 1.診断/原因:心房細動の原因となる病態の診断や治療方法が不明な場合
2.DC除細動:上記の適応を参照 3.症状の持続:通常の治療をしても不快な症状や日常生活の支障が軽減しない場合
作成:イギリスオックスフォード州日常的心疾患治療検討グループ
訳(註)編:TIP/JIP「EBM医薬品集プロジェクトチーム」 |