「いま医薬品を見直そう」 シリーズ

 

  

 

第19回 トログリタゾン(ノスカール)の危険は大

  

1998年5月25日

 

 ノスカール危険/利益比につきTIP誌1998年2月号で論じたが、その後も重要な情報が集まっており再度取り上げた(詳細はTIP誌1998年4.5月号参照)。
 糖尿病学会誌「糖尿病」三月号、四月号に異例の警告文書「トログリタゾンによる肝障害について」が折り込まれた。
 その要点は、@一カ月一度の肝機能検査実施、A検査実施後ただちに確認、B軽度異常でも中止する、C患者への情報提供、D再増悪例もあり完全正常化までの追跡、などである。
 メーカーが一九九七年十二月十六日までに入手した三十七例(死亡例六例を含む。うち二例は中央薬事審議会で関連が否定されたが、この点後述)を検討した結果が論文になった。
 使用前に肝機能検査をしていなかった例は三十一人中四人、肝障害の発現までに一度も肝機能検査をしていなかった例が三十六人中十一人あった。死亡例では四例中三例は中止前に検査が実施されていなかった。
 個々のALT(GPT)値の推移図から、軽度異常後も使用し続けると次回ALT値が急激に上昇する例が多い点が注目され、軽度異常で中止すべき根拠となっている。
 しかし、中には二週間でほぼ正常値から約500に上昇した例もあり、一カ月ごとの検査でよいのか問題もある。中止後一旦低下して再上昇する例も少なからず認められた。
 海外での臨床試験を総合した(トログリタゾン使用二千五百十人、プラシーボ四百七十五人)結果、ALT値が正常上限値の三倍以上になり中止したのはトログリタゾン群のみで0,8%(百二十六人に一人)。十倍以上が十二人、二十倍以上が五人(五百人に一人)、黄疸が二人に出現した。

【肝細胞、膵β細胞がアポトーシス】
 ラットの培養肝細胞で臨床使用濃度の五倍程度のトログリタゾン添加で細胞外遊離LDH上昇、肝細胞生存率の著明な低下、DNAの断片化などアポトーシス誘導所見が得られた。肝障害の発生との関連性を示唆する研究結果である。ハムスターの培養膵β細胞でもβ細胞増殖率の阻害、DNAの断片化などアポトーシスを示した研究も発表された。類似物質をラットに投与して血漿量の増加に伴い容量負荷を介して心重量が増加したと考えられた実験結果(トログリタゾンでも同様)や、膵β細胞と心筋・骨格筋のATP感受性K+チャンネル活性を抑制したとの研究結果も発表された。肝、膵以外(血球、筋、腎)でもアポトーシスや細胞機能低下の可能性を考えるべきであろう。

【危険/利益比はさらに増大】
 トログリタゾンはインスリン分泌を減少し血糖を低下させる。ブドウ糖の細胞内への取り込み増加という一見好都合な反応が生じる一方、横紋筋の酸素消費を増加(50%)させ、動物に肝、膵細胞のアポトーシス、細胞機能低下を生じた。
 動物で血漿量の増加に比例して心肥大が生じ、臨床的にも高頻度に浮腫が報告されている。
 臨床試験で肝障害だけでなくLDHやCPK上昇、貧血、白血球減少、血小板減少など細胞障害を示唆する所見を高頻度に認めている。
 これらの結果は、臨床的にも心不全や腎不全の可能性、酸素消費増大に伴う心筋梗塞、糖尿病の急激な悪化なども生じる可能性を示唆する。
 メーカーからの新たな情報を総合すると、重篤な肝障害累計百十人、肝障害死は累計九人となる。二万人に一人の死亡、五百人に一人の入院に相当する重症肝障害の発生は、長期効果が不明な薬剤の副作用としてはあまりにも高頻度であろう。
 中央薬事審議会でトログリタゾンとの関連が否定されたという二例の死因は何であったのか。詳細はTIP誌を参照いただきたい。利点は血糖値とHbA1cの低下のみ。長期使用の効果と安全性は証明されていない。
 むしろ、危険の大きさ、したがって危険/便益比も減少するどころか、増大する一方である。TIP誌では、トログリタゾン(ノスカール)は使用中止するのが適切と判断した。