「いま医薬品を見直そう」 シリーズ

 

  

 

第26回 セファロスポリン系など抗生物質の皮内テスト
      アナフィラキシー・ショック予防に毎回必要

  

1998年10月25日

 

【毎回の皮膚反応試験は注意義務】
 気管支喘息の十三歳の男子が入院して間もなく点滴中に急死したため、母親が病院の過失を主張して訴えていた事件に対して、1998年10月2日大阪高裁は原審を覆し、医師の過失と責任を認める判決を下した。判決の趣旨は「過去の皮膚反応試験が何回か陰性でも、…医師は改めて皮膚反応試験を実施すべき注意義務があり、……皮膚テストをせずに投与したことに過失があった」というもので、請求額三千五百万円に対して、約二千六百万円の支払いを民間医療機関に命じた。
 症例は三歳頃から気管支喘息でハウスダストなどに陽性。二回目(1988年)から八回目(1989年)の入院時までセフォチアム(ハロスポア、パンスポリンと同成分)が合計七回にわたって使用された。一回目、二回目、四回目、六回目の使用前の合計四回に皮内テストを実施し、いずれも陰性。三回目、五回目は皮膚テストを実施しなかったが静脈注射で異常なく、七回目(六回目終了時より二十六日目)に皮膚テストを実施せずに使用してアナフィラキシー・ショックを生じた。
 一審の判決でも、病院側が主張した「喘息悪化説」はとらず、死因はハロスポアによるアナフィラキシー・ショックと認定した。また、ショック防止のため毎回必ず皮膚反応試験を実施すべきとする鑑定意見を「正当な見解と考えられる」と述べた。
 しかし一審判決では、このような考えは、「事件当時に一般的な見解になっていたものとは言えず」、「セフォチアムの皮膚反応試験陰性者は容易に陽性に変わることはないとの見解が一般的であったと認められる」として、皮膚テストを実施していなかったことを「過失があったとまではいうことはできない」とした。使用後の観察や治療についても、医師(A)に過失なしとの判決がなされ、原告が控訴していたもので、この判決を覆して、冒頭のような大阪高裁の判決が下されたのである。

【薬害防止への三つの注意ポイント】
 本件は、医療者にとっては厳しい判決ではあるが、薬害を防止し、死亡という最悪の状態を回避するために、注意すべき重要なポイントが少なくとも三点示されている。
 すなわち1)セフォチアムはアナフィラキシー・ショックを生じやすいとの知識の有無。2)アナフィラキシー・ショックを生じやすい薬剤は毎回皮膚テストが必要。3)点滴ボトルに注入した場合には激烈な反応が注入直後ではなく十〜二十分後とやや遅れて出現する可能性がある点などである。
 1)の点は、セフォチアムを扱う看護婦が皮膚に触れただけでアナフィラキシー・ショックを起こす例があること、厚生省の情報を比較したデータでもセフエム系注射剤中最もショックの頻度が高かったことから明らかであり、そのような知識は重要。
 2)、初回のセフォチアムの皮内テストが陰性で、使用しても副作用のなかった人に一定間隔後に二回目の皮内テストを実施したところ、百四十人に一人(0.7%)が陽転したので二回目以降も陽性の頻度が高いことが分かる。
 原審で「セフォチアムの皮膚反応試験陰性者は容易に陽性に変わることはないとの見解が一般的であったと認められる」との根拠とされたこのデータはむしろ、「容易に陽転しうる」との根拠となるデータである。また、この医師が初回だけでなく、二回目、四回目、六回目には皮膚テストを実施していたこと自体、二回目以降の皮内テストの必要性を認識していたことを如実に示している。
 3)については、当たり前だが状況によっては見過ごされる。医師は、アナフィラキシー・ショックの前に何か新たに使用されなかったかどうかを確認し、冷静に検討する必要がある。こうすれば、二十分前のセフォチアムの点滴内への追加にたどりつけたはずである。
 ペニシリン系やセファロスポリン系の抗生物質に限らず、アナフィラキシー・ショックを起こしやすい薬剤では、過去に何度も使用して異常がなかったとしてもアナフィラキシー・ショックが起きないとは限らないことを考え、アナフィラキシー・ショック防止のために皮内テストを実施することがまず大切である。
 もしも皮膚テストをせずに使用し急激な呼吸困難やショック、ケイレンの症状が出現した場合にはアナフィラキシー・ショックの診断を正確にすることが大切である。その原因として、ボトル内に追加した薬剤が遅れて影響が出現することをも考える必要がある。

〔参考文献〕
 1)浜 六郎、TIP誌『正しい治療と薬の情報』13:95,1998年
 2)浜 六郎、セファクロル(ケフラール)重症アレルギー反応の多発と有用性への疑問、TIP誌『正しい治療と薬の情報』3:57−63,1988