「いま医薬品を見直そう」 シリーズ

 

  

 

第28回 新ガイドライン評価によるアニラセタム(サープル・ドラガノン)も根拠なし

  

1998年12月25日

 

 アバンなどいわゆる脳代謝改善剤四成分の実質的中止により、使用されていた患者のほぼ60%は代替薬剤なく中止され、約40%のうち約半数がアニラセタム(サープル、ドラガノン)に変更。その他はサーミオン、セロクラールなどに変更された。変更の目玉「アニラセタム」の一九九七年市場規模一六〇億円。一九九八年は? 効果は? 無関心ではいられない。
 アニラセタムはアセチルコリン作動性物質。外国ではイタリアで発売されているのみ。日本では、ホパテを対照に有意差なしとされたが、一九八七年の新ガイドラインに沿ってプラセボ対照二重盲検比較試験が実施され、一九九三年承認された。
 代替薬剤の中心となった理由は「新ガイドラインで承認された」ためであろう。TIP誌は1998年12月号で、その承認の妥当性を検討した橋本らの論文1)を掲載した。その概要を紹介する。

臨床試験におけるデザインの問題
 この論文は118施設からの脳梗塞、脳出血あわせて412例を対象とした。4症例分1組(各組アニラセタム、プラセボ各2症例)として試験物、プラセボを前もってランダムに割り付けた。まず問題は、患者を登録時に二群に分けるのではなく、前もって「物」を2群に分けたため途中で操作が加えられやすく、ブロックサイズが1ブロック4例と小さいために、割り付けが見破られやすい点。次に、一施設あたり適応患者の脳梗塞の症例数が平均2.4例(全例でも3.5例)と少なく、評価者間、施設間の評価の偏り等がチェックし難い点である。

評価尺度は「全般改善度」
 中止された四剤同様、再現性、妥当性の保証のない「全般改善度」で評価された。「全般改善度:主として精神症候または尿失禁の改善度を中心に………五段階評価した」と記されているのみである。精神症候(二十項目)の他、自覚症状、神経症候、日常動作障害、合計四十三項目の個別評価項目につき五段階評価が行われ、その上で全般改善度を評価。その方法は中止四剤同様である。

評価項目数
 P<0.05で有意の差が認められたという「不安・焦燥」「抑うつ気分」「感情失禁」「徘徊」は四十三にのぼる項目中の四項目に過ぎない。多数の評価項目を比較する場合、項目数に応じてP値は0.05より小さな値とすべきであり、四項目における差は単なる偶然の可能性がある。これは探索的試験としての参考にはなっても、承認の根拠とはできない。

部分群の比較の問題
 臨床試験では脳梗塞と脳出血四一二例を対象としてランダム割付けしたが、承認された適応は「脳梗塞後遺症に伴う情緒障害(不安・焦燥、抑うつ気分)の改善」である。脳梗塞患者数二八五例は四一二例の69%であり、31%は除外して解析された。「不安・焦燥」「抑うつ気分」が評価された人数は一七八人(43%)、二〇六人(49%)であり、当初の半数にも満たず、適応症状から外された「感情失禁」「徘徊」に至っては、一一六人(28%)、五二人(13%)に過ぎない。これでは最初に無作為に二群に割り付けた意味がない。部分群の比較の妥当性を主張するには、部分群どうしの背景因子に差がないことを確認する必要がある。「脳梗塞後遺症に伴う情緒障害(不安・焦燥・抑うつ気分)の改善」を効能・効果として標榜するなら、「脳梗塞後遺症に伴う情緒障害(不安・焦燥・抑うつ気分)」のある症例のみを対象とした臨床試験を改めて計画すべきである。

考察・結論
 全項目の9%にすぎない四項目の、しかもランダム割付に疑問のある「差」にもかかわらず「全般改善度」では有意差があった。承認された「効能・効果」は、その根拠とされた臨床試験をみる限り、科学的な根拠を見いだし得なかった。厚生省は、すべての脳循環・代謝改善剤を再検討し、今回削除された四成分と同様の措置を取るべきである。
〔TIP誌注‥十二月九日、中央薬事審議会の医薬品再評価特別部会は、脳梗塞後遺症に適応の三一成分(アニラセタム、サーミオン以外)の見直しをすることを決めた。1999年4月までに既存データで審査し、効果に疑問のある場合には臨床試験を指示する予定という。大部分は有効性の根拠がないため、取り消されるであろう。〕(1998年12月現在)
結果については、厚生省・製薬企業からの医薬品情報(医薬品機構)のホームページ     http://www.pharmasys.gr.jp/index.html
 をご参照ください。
【文献】
 1)橋本健太郎ら、「新ガイドラインで評価された脳代謝改善剤アニラセタム(サープル、ドラガノン)の問題点について、TIP『正しい治療と薬の情報』13:117・1998