「いま医薬品を見直そう」 シリーズ

 

  

 

第35回 承認根拠論文の公表義務廃止で公平な見直しは不可能に  

  

1999年5月5,15日

 

医薬品承認制度の信頼性を揺るがす事態】

 医薬品の見直しに必須の「根拠論文の公表義務」の規定が廃止されようとしている。
 このままでは、まともな医薬品が出てこないし、公平な見直しも不可能になる。再考を求めるため、TIP誌の発行母体である医薬品・治療研究会、医薬ビジランスセンターJIP、薬害オンブズパースンの三者はこの問題を重視し、この規定を廃止しないよう、一九九九年三月三十日に厚生省に要請した。
 ところが、逆に反対運動が起こるのを恐れるかのように電光石火の勢いで廃止の方針を決定し、通知した。
 そこで、三者は一九九九年四月二十二日に再度、厚生大臣に対して要請を行った。医薬品承認制度の信頼性を揺るがす重大な変更であり、緊急に撤回を求めたい。
 厚生省では、医薬品の適正使用やEBMの重要性を説き始めたが、その一方でEBM実施の基盤となる根拠論文の公表要件を廃止するという矛盾した決定をした。厚生省の責務は、決して製薬企業の保護・育成ではなく、第一に「国民の健康や生命を守ること」にあることをもう一度思い起こしてほしい。

【学術誌等への公表要件廃止に関するQ&A(概要)】
 医薬品・治療研究会、医薬ビジランスセンター、薬害オンブズパースンでは早速、この件についてのQ&Aを共同作成した。

Q1 新薬の臨床試験データは学術誌への公表が義務づけられているのですか
A  昭和四十二年から、学会誌等への公表が義務づけられてきました。臨床試験だけでなく、薬理、毒性試験などもです。

Q2 なぜこのような公表制度が設けられたのですか?
A  サリドマイド事件を契機に、医薬品の有効性と安全性を裏付ける科学的根拠が重視されるようになってきたからです。

Q3 海外ではこのシステムの評価は?
A  他の国の手本になる優れた制度として賞賛されています。

Q4 どのように役立ってきたのですか?
A  この欄にも多く紹介したように、日本のローカルドラッグの見直しの資料になってきました(ベロテック、ノスカール、脳循環代謝改善剤、抗アレルギー剤等)。

Q5 厚生省は「知的所有権」を問題にしているようですが。
A  外国で後発メーカーがデータを流用して許可をとるのを防ぐためとしていますが、一定期間は後発メーカーが使えなくすることで対応できます。それに、WHOの決議にもあるように、企業の知的所有権よりも、公衆の健康上の利益が最優先なのです。

Q6 SBA(医薬品承認審査概要)では公表されたことになりませんか?
A  SBAはあくまで「概要」。都合の悪いデータが隠され、公平な見直しの資料になりません。

Q7 SBAが不十分との具体例は?
A  TIP誌の薬の見直しの主な資料は、この制度で公表された論文です。例えば、抗癌剤のイリノテカンでは高率に死亡者が出ましたが、各臓器への蓄積、骨髄抑制からの回復の重要なデータがSBAでは欠けています。脳循環代謝改善剤の欠陥をいち早く指摘し、承認取り消しへの端緒をつくることができたのも、公表論文があったからです。

新薬承認根拠論文の学術誌への公表要件廃止決定の撤回を求める要請
厚生大臣 宮下創平様

 この度、厚生省は昭和四十二年九月十三日の薬務局長通知「医薬品の承認申請に関する基本方針について」(以下「旧基本方針」と略)を廃止し、医薬品の承認申請方針を変更する通知を発表しました(平成十一年四月八日付け医薬品安全局長通知と同局審査管理課長通知)。
 旧基本方針のうち、特に第4項の「提出を求められた資料のうちの主なものは、原則として、日本国内の専門の学会もしくは学術雑誌に発表され、又はこれらに準ずる雑誌に掲載され、若しくは掲載されることが明らかなものでなければならない」との規定(以下「学術誌への公表要件」と略)は、医薬品情報の客観性、中立性、透明性を確保する上で極めて重要な制度であり、これを廃止することは、医薬品承認制度の信頼性を揺るがす重大な変更であります。
 今回の決定は、厚生省が進めている薬の適正使用やEvidence−Based Medicineへの動きとも矛盾する上に、薬害エイズ事件等で指摘されてきた秘密主義の復活を懸念させ、極めて遺憾です。新制度の中で「学術誌への公表要件」が何らかの形で存続するよう強く再考を求めます。