「いま医薬品を見直そう」 シリーズ

 

  

 

第44回 高血圧に関するWHOの欠陥指針
      誰がその評価を傷つけたか
  

  

1999年10月25日

 

 最近、WHO/ISH(国際高血圧学会)task force(特別作業委員会)の指針が出て、これが翻訳され、大々的に宣伝されている。
 抗生物質の適切な使用に関する知識の普及や、同じWHOの研究や指針でもクロフィブラートの危険性のデータや、エッセッシャルドラッグ(必須薬)リストの普及には関心が示されない中で、このWHO/ISH task forceの指針がなぜこれほど大々的に、かつ早く普及が図られているのか。
 この疑問を解く鍵を、TIP誌の提携情報誌であるフランスのPrescrire誌が提供してくれたので、さっそく、TIP誌 1999年8・9月合併号に掲載した。その内容を要約して紹介する。

一部製薬企業の影響下に作成された指針
 一九九九年のWHO/ISH task forceの指針は一九九九年二月四日にロンドンで発表されたが、これは正式公表前のことだった。この数時間前、WHOは「緊急情報:ロンドンで発表されるとみられるWHO press briefingに関して」と題する記者発表資料を配付し、一九九九年のWHO/ISH task forceの指針はWHOとは無関係であると述べ、これがWHOの同意なしに製薬企業のスポンサーにより配られる事実を批判した。ところが、奇妙なことに、翌二月五日になると、WHOは指針の作成法に関する批判をやめ、その科学的妥当性を認め、記者会見の設営法に対する非難を行うだけになってしまった。
 このような突然の方向転換がなぜ起こったかを調べた結果、一九九九年のWHO/ISH task forceが重点を置いたのは、B社の基金提供で行われたSyst−Eur試験と、A社のスポンサーをしたHOT試験の結果であるということを幾人かの編集者たちが指摘した(A社、B社はPrescrire誌、TIP誌では実名入り)。
 さらにA社は、二月四日のWHO/ISH task forceに資金提供を行い、ISHのインターネット websiteの表紙には同社の社名が掲載された。

証明された効果に基づいて治療戦略を立てるべきである
 このWHOの欠陥指針に対する問題点の指摘に先立ち、Prescrire誌では、これまでの臨床試験の系統的レビューの結果をもとに高血圧治療に関する治療試験を公表した。
 その結果は、最近のインディペンデントな団体による指針(北欧における治療指針など)の結論と合致するものであった。この内容は、TIP誌 1999年7月号に掲載している(その要約は、次回本欄に掲載予定)。

WHOの誤った解釈
 その1
 治療目標値130/85mmHgの根拠はない
 最も問題なのは、治療目標を130/85mmHgに設定したことである(なぜ問題かは、TIP誌を参照下さい。概略は次回に)。
 その2
 降圧剤六群が同列第一次選択薬ではない
 利尿剤とβ遮断剤以外の他種類の降圧剤も含め主要な六群の降圧剤がすべて第一選択薬で、どれを選択してもよいとしているがこれも問題である(なぜ問題であるかは、TIP誌を参照下さい。概略は次回に)。
 
厳格で独立した視点を
 専門家の間にも、このWHO/ISH task forceの指針を問題視する見解がある。
 このような現状を考えると、以下の点に注意が必要である。まず、(1)WHOのような国際機関が、どうしてコントロールを失ったか見極めるべき。
 (2)WHO等国際組織や学会への製薬企業の影響力増大は阻止しなければならない。
 最後に、Prescrire誌では、今後、医療者は、「WHO」「コンセンサス」「推奨」などという言葉があっても、にわかには信用すべきではなく、その出所と根拠を確かめるなど、用心が必要であることを力説している。