「いま医薬品を見直そう」 シリーズ

 

  

 

第52回 NSAIDSの解熱剤としての使用は中止すべき  

  

2000年3月15日

 

 これまでにも、解熱剤の害を述べてきたが、昨年末に厚生省の研究班(インフルエンザ脳炎・脳症の臨床疫学的研究班、班長森島恒雄氏)が、ジクロフェナク(ボルタレンなど)やメフェナム酸(ポンタールなど)と脳症死亡との関連を示唆する調査結果を公表した。
 厚生省では両者の関連を示唆する調査結果を公表しながら、医療現場に対する処方変更などの対応は何ら求めていない。問題点をTIP誌2000年1月号で早速取り上げてコメントしたので、その概要を紹介する。

厚生省が脳症死亡との関連を示唆するデータを公表
 厚生省の発表の概要は以下の通り。
(1)昨シーズンのインフルエンザ脳炎・脳症(以下脳症と略)につき主治医記入による二次アンケートを実施。
 (2)性別、年齢、脳症発症までの期間、最高体温などについて記載があった181例(うち170例が15例以下の小児)で解熱剤と予後(死亡)について解析した。
 その結果、解熱剤を使用しなかった脳症63例中、死亡16例(25,4%)、アセトアミノフェン使用脳症78例中死亡23例(29,5%)、ジクロフェナクナトリウム(以下ジクロフェナク)使用脳症25例中死亡13例(52%)、メフェナム酸使用脳症9例中6例(66,7%)、その他の解熱剤使用脳症22例中死亡5例(22,7%)であった。インフルエンザ脳炎・脳症で一部の解熱剤を使用された症例で、死亡率の上昇が見られた。
 (3)しかしながら、インフルエンザ脳炎・脳症においては発熱が高くなるほど死亡率が高くなることが知られ、ジクロフェナク等が重症例の解熱に使用される傾向があることを踏まえ、多変量解析を行った。
 その結果、ジクロフェナク:オッズ比3.05,P=0.048)、メフェナム酸:オッズ比4.6,P=0.045)とインフルエンザ脳炎・脳症の死亡について、わずかだが有意な結果を得た。
 (4)解熱剤の一部がインフルエンザ脳炎・脳症の重症化に何らかの関連がある可能性が示唆されたが、症例数が少なく、有意差もごくわずかであることから、今後も調査が必要である。

詳細な検討でさらに意味ある結果
 以上の結果を得ながら「医療現場に何らかの対応をお願いする状況にはない」として、厚生省では、非ステロイド抗炎症剤の解熱の適応を制限するなどの措置はとっていない。調査の信頼性は必ずしも高いといえないが、私たちの解析結果では、以下のように、重要な意味を持っている。
 (1)私たちが再検討した結果、脳症例中の死亡例の比率を、薬剤以外の要因を考慮せず、個々の薬剤を使用したか使用しなかったかだけで単純に比較した場合(これを単変量解析と言う)と、脳症発症までの期間や最高体温なども考慮に入れた多変量解析した結果で、オッズ比にほとんど差がなかった。このことは、解熱剤以外の要因の関与が少ないことを示している。
 (2)ジクロフェナクとメフェナム酸を非ステロイド抗炎症剤(NSAIDs)としてまとめ、これらを使用しなかった脳症患者と比較すると、オッズ比は3.69でp値は0.0008となり、脳症との間にはきわめて関連が強いことが判明した。
 (3)以前の厚生省調査でも非ステロイド抗炎症剤の死亡へのオッズ比は20(p<0.01)とのデータがある。

中止するには十分なデータ
 以上の結果だけからでも、解熱剤として使用されているNSAIDsがライ症候群やインフルエンザ関連脳炎・脳症の重症化や死亡に関与する主要な要因であるといえる。安全な代替解熱剤としてアセトアミノフェンがあるのだから、上記のデータだけでもNSAIDsを解熱剤として使用する十分な根拠となる。他のデータ(第54回で紹介)とも合わせて考えれば、日本においてライ症候群の発症をなくし、インフルエンザ関連脳炎/脳症の重症化や死亡を減らすための最も確実な方法は、このNSAIDsを解熱剤として使用しないことである。