2005年1月20日、「肺がん患者に対する延命効果なし」とのISEL試験の結果を受けて開催されたイレッサ検討会は、現状に何の変更も加えることなく、継続販売することを確認して終了した(添付資料48-1)1),2)。
NPO法人医薬ビジランスセンター(NPOJIP)と医薬品・治療研究会(TIP)が事前に全委員に対して重要な問題点を指摘する意見を提出していた3)が、その最も重要な問題点に関して全く解明されることなく、販売継続が決定されてしまった。
われわれが最も疑問とし、厚労省自身もメーカーに質問し、統計学者の委員からも強く指摘されたISEL試験中の最大の問題点は、
しかし、結局アストラゼネカ社からは何ら納得できる説明もないまま、アストラゼネカ社の長々とした、偏った情報の説明に厚労省事務局が助け舟を出すような形でまとめられ、また、
なぜなら、EGFR遺伝子変異とイレッサ使用時の腫瘍縮小効果は関係あるが、それが生存期間にも寄与するのかどうかについては不明だからである。また最近では、EGFR遺伝子変異と生存期間は無関係である4)との結果も得られている。
このことは、ISEL試験でイレッサはプラシーボ群に比べて腫瘍縮小効果は有意であったが生存期間を延長しなかった5)ことと一致した知見であり、また、欧米人と日本人とで、多変量解析をすれば反応率も差がなかった6,7)ということとも、よく一致する知見である。
ふつう、ランダム化比較試験による科学的データは、背景因子が同じであることを確認した上で、結果を示すべきである。背景因子を示さないまま有意差があると言っても無意味であり、サブグループ解析(部分的解析)では、たとえ背景因子に偏りがなくても、「有効」と結論をしてはならない。ましてや、背景因子での偏りがないことが示せないなら、「効果の可能性」あるいは「延命効果が示唆される」などという主張をしてはならない。
ところが、東洋人対照群の非喫煙者においては、背景因子に大きな偏りの可能性があるにもかかわらず、アストラゼネカ社は、それを示さないまま「東洋人で生存期間を延長することが示唆される」と宣伝に用い5)、患者へのインフォームド・コンセントにも記載し8)、それを厚生労働省も認め1)(別添資料48-1)、マスメディアもそう報道してしまっている2)。
1月20日のゲフィチニブ問題検討会では、アストラゼネカ社は、スライド原稿を委員にも部分的にしか配布せず、部分的に配布したものも回収し、傍聴者には全く配布せず、誰にも読めないような小さな文字で、しかも瞬時しか示さなかった2-I-ii)。しかも部分的スライド原稿回収の理由は、論文にするに際して支障があるという、理由にならない理由であった。
このような説明で、「背景因子への疑問に、公開の場で企業が適切に答えた」などとするなら、それは筋違いも甚だしい。そうした措置を厚生労働省が認めてしまったことは、厚生労働省が、アストラゼネカ社に、新手の出版バイアスを許したことになり、現在進行中の出版バイアスを排除しようとする世界的な動きに反する行為である。
今後、臨床試験登録制度を実施したとしても、こうした公表方法を許しておく限りは、出版バイアスはなくならない。
再度確認しておく。東洋人でも生存期間延長は示唆でさえ、されていない。
背景因子が明らかでないので、ISEL試験中、喫煙歴のない東洋人での生存期間のデータは無効であり、IDEAL-1では「日本人と欧米人で差はない」、また、EGFR遺伝子変異は生存期間とは無関係であり、非東洋人でイレッサは寿命延長効果がなかった。
これらの結果を総合すれば、イレッサは現時点において日本人でも非小細胞性肺癌患者の寿命延長効果は全く示唆されていないし、むしろ「寿命延長効果はない」と考えておくべきである。
日本人と欧米人とで差があるとすれば、民族として特別に差ではなく、それは、化学療法の種類や回数あるいは強さ、進行度の違い、放射線療法の有無、腺がんが多いかどうか、喫煙しているかどうか、男性か女性かなどの違いであろう。
EGFR遺伝子変異と生存期間が無関係との結果も加えて、再度、私たちの検討結果をまとめておきたい。
2005年1月20日のイレッサ問題検討会の結果と最近のEGFR遺伝子変異に関する知見を合わせて考察しても、アストラゼネカ社が主張しているような、東洋人(日本人以外)における延命効果の証拠はなく、その可能性もないと考える。その主な理由は、
「イレッサは日本人にも無効」として対処すべきである。
ゲフィチニブ検討会では、2004年末までに約8.7万人が使用したと推定された10)。厚生労働省に報告のあった急性肺傷害・間質性肺炎(肺傷害)による死亡者数は588人にのぼっている10)。前向き調査結果による肺傷害死亡率が2.5%(83/3322)であったとされている11)ので、これをもとに推定すると、イレッサの肺傷害による死亡者数は約2200人と推定できる。
イレッサによる害反応(副作用)死亡数と肺傷害死亡数の比率は、124人対114人であった12)。したがて、害反応死亡者数は約2500程度になると推定できる。これまでのイレッサによる推定肺傷害死亡率3.2%で計算すると、約3000人がイレッサの毒性により死亡したと考えられる。
情報開示もされていない現在、今回のISEL試験の結果や「ゲフィチニブ問題検討会」の結果を受けても、イレッサの評価は何ら変わることはない。私たちがこれまで主張してきたとおり、あるいはむしろこれまで以上に積極的に、イレッサの承認取り消し、販売中止、承認申請データの全面的公開が必要である。
1月20日のゲフィチニブ(イレッサ)問題検討会委員と厚生労働省担当者に対して提出した要望書とその要望書前文はこちら【要望書前文】【要望書】。
参考文献